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わたしのブログ

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続きです。

私は本隊とこのような分かれ方で、無事敵中を通過して、漢口の陸軍病院に看護婦の助けを借りて入院した。私はもう腰が抜けたような姿で、風呂に入れてもらった。私の体を洗ってくれる看護婦の顔を振り向いてみたら、まるで観音様のように見えた。頭に白いズキン、丸顔の若い人で奈良班の看護婦だそうだ。
 松村中尉の無事を祈りつつ、入浴中、看護婦が付きっ切りで体を洗ってくれた。熊のような足を引っかいてみた。中から真っ白い肉が見えた。腐っていると思い・・・「ヒヤッ」と声を上げたら、観音様が「醜い垢だこと」と笑って洗ってくれた。
 女というものがこんなにありがたいものとは 一生忘れることは出来ない。
頭の毛はバリカンで顔はかみそりで一皮向けて、可愛い子ちゃんになったようだ。手さばきが実に早い。病衣を着せてもらい帯を締めたとき、胸のところに新しい一等兵の階級章がついていた。軍隊という所は手回しが良い。看護婦に助けられてベットに寝かされた。まったく子ども扱いである。
 私の担当軍医は「服部見習軍医です。」と観音様が教えてくれた。ベットの整理棚を見たら私の奉公袋と新しい戒名・・・・陸軍一等兵片山栄司・・・と書いてある。これには驚いた。この奉公袋が私の体のどこについていたのかまったく覚えが無い。夢のまた夢だ。中には軍隊手帳と印鑑がちゃんと入っていた。病院の入り口で敬礼と大きな声がした。将校が入ってくるとそれを見たものは皆に知らせ全員敬礼をする。服部軍医だ。
 私の所へ来て、新しい戒名を見ながら「片山だな、気分は」さっぱりしたので「ハイ、気分は良いです。」と答えた。「どうだ、飯は」「のどがえがらっぽい」と答えたら、脈を診て看護婦に何か行って注射をして血を採って、「ゆっくり休むように」いい出て行った。夕方、看護婦が来て「今食べたいものはなんですか?何でも良いですから食べたいものを言いなさい。」と言われた。
私は・・・・もう駄目なのかな・・・・と思った。
 何を言ったか覚えていない。何か言ったのだろうか。夕飯が来た。レバーの甘辛煮つけと野菜の汁と重湯であった。食べたら実に旨い。感無量であった。看護婦が見ていて「どう、・・・・食べられる?」と言ったので「旨い。」と答へ、見ている前で全部食べてしまった。「あぁ、良かったわね」と言い食器を下げていった。生き返ったような気持ちになった。


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